君が夏を走らせる/瀬尾まいこ

読み終わった勢いでこれを書いている。

 

高校一年生の不良少年が、1歳10か月の女の子を、ひと月お世話する話。

本当に、それだけ。

 

不良少年は、不良少年だけどほんとうに不良少年なわけではない。

自分の居場所が定められなくて、やりたいことが決められなくて、その気持ちをきちんと言葉にできないだけ。

少年の一人称で進んでいく彼の心情は何かを求めて、考えている。

 

最初の3日間は女の子は泣いてばかりいた。

それでも、心を少しずつ開いていった。

少年も、女の子を喜ばせようとごはんを作った。おもちゃで遊んだ。

公園に遊びに行った。肩車をした。走った。

それだけ。

 

大きな事件もない。

普段ミステリだの不条理だの読んでいる私は、この2人は何か困難にぶちあたると思っていた。

女の子がケガをするとか、熱を出すとか。

少年が元仲間に絡まれるとか、不審な目で見られるとか。

そんなこともない。

 

ほんとうに1日1日、丁寧に2人の生活が描かれるだけだ。

 

もちろん少しは変化がある。

公園で一緒に遊ぶ子ができる。

雨の日におにぎりを食べる。

少年が休日に学校のクラスメイトと会う。

 

その変化が少年を少しずつ根底にある渇望を埋めていく。

それを読んでいるだけで私はずっと泣いていた。

自分の子供とそう変わらない年齢の女の子。

子供もこうやって大きくなるのかな。

こんなことをするのかな。

1日1日、なんて尊いんだ。

 

自分に引き寄せまくっているからこんなに揺さぶられる。

今じゃないときに、もっと昔に読んだってこの感情はでてこない。

多分「普通に良い話」で終わってしまう。

 

だからこそ、今感じていることを大切にしなきゃいけないな、と思う。

例えばこれから子供を迎えに行くときは笑顔で行こう。

たくさんたくさん、遊んであげよう。

難しいのはわかってる。子供はいつだって思うようにお世話されてくれない。

それでも、この気持ちはちゃんと持っていなきゃな、と思う。

 

君が夏を走らせる(新潮文庫)

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