クローバーナイト/辻村深月

単行本になった当時、ふらっと入った本屋さんの新刊コーナーで見かけて「あ、家族モノなのね。私の興味の範囲じゃないかな」と思ってスルーしてしまった作品。

子供ができて「家族ができた」今なら自分に寄せて読めるかな、と思って文庫版を購入。

辻村さんデビュー15周年の一環みたい。

「冷たい校舎の時は止まる」愛蔵版刊行

「ツナグ想い人の心得」刊行

「善良と傲慢」刊行

東京會舘とわたし」文庫化

「クローバーナイト」文庫化

と、すごく豪華な内容。

ツナグも読了してるので感想まとめておきたいな…

 

クローバーナイト (光文社文庫)

クローバーナイト (光文社文庫)

  • 作者:辻村 深月
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2019/11/12
  • メディア: 文庫
 

 

 

tweetした通り今の自分の状況に合ってるタイミングで文庫化して、本屋に平積みで並ぶって、ご縁があるなーと思って。この前の育休刑事みたいに。

 

主人公とその妻、長女(4歳)と長男(2歳)の核家族

保育園や職場の人から聞いた「小さな謎」を解き明かしていくお話。

日常の謎ってやつですね。

でもその「謎」は当事者にとっては本当にしんどくて辛くて。

自分にとっての「普通」から外れてしまうんじゃないかという恐怖と隣り合わせの謎。

自分の世界から自分が弾かれてしまうって、想像しただけで怖い。

それは他の世界を知らないから、気づいてないからこその恐怖なんだけど、一人だけじゃそこにたどり着けない。

他の世界があるんだよ、固執しなくても良いんだよ、と主人公の裕やその妻志保が優しく教えてくれる。

あなたが悪い、間違ってるとは言わない。

こういう道があるよ、と導くこともない。

たださりげなく相手に気づかせるように他の世界を伝える。

 

家事のやり方について、保活、お受験、お誕生日会、そして子供の発達。

どれも自分ひとりで考え込んでたら袋小路にはまり込むようなばかりで。

特に保活は自分でも体験したからお母さんたちの必死な感覚はわかる。(それにとどまらない事件も起こってくるんだけど)

最後の話は心がきゅっとなって、自分の子供のことについて考えてしまった。それと自分の親・夫の親との関わり。

 

辻村さんの作風だと、もっとお母さん同士のやりとりで重たい話に持っていくこともできたと思うし、そっちのが私は近年の雰囲気じゃないかと思うんだけど…

夫の視点で描かれることで女性の感情に近づきすぎないようにしていて、それが悩んでいる人の世界を広げることにつながっている。

私の好きな辻村さんの世界で良かったなぁ。

 

クローバーナイトの「ナイト」は騎士の意味。

四つ葉のクローバーを家族それぞれに見立てて、鶴峯家を守る裕は「クローバーナイトだね」と志保に言われる。

みんなそれぞれが自分たちの家族を守ろうとする「ナイト」なんだね、と。

もちろんそれは夫だけじゃないし妻だって家族を守ろうとしている。

自分の子供の家族を守りたくて孫のことにも口を出してしまう。

「子供に得をさせたいわけじゃなくて、損をさせたくない。自分のせいで子供に不利な想いをさせたくない、真面目なクローバーナイト」って表現される人がいて、ちょっとドキっとしてしまった。

過剰な心配をしすぎて、自分が息を止めてしまわないように、となんとなく考えながら読んでいた。

 

私は3人家族、三つ葉のクローバーだ。

「ナイト」の称号は夫の方が相応しいんじゃないかなと思うけどお互い家族を守るために、よりよく過ごしていきたいな、と思った読書でした。