育休刑事/似鳥鶏

本にも出会うべきタイミングがあって、ぴったりの時に読むとまるで自分のために書かれたんじゃないかと思えることがある。

勿論そうそうあることじゃないけど、今までそう思えたのは辻村深月の「僕のメジャースプーン」で。

これも「タイミングの合った」本になった。

 

育休刑事

育休刑事

 

 県警の捜査一課に勤める秋月巡査は、男性刑事として初めての育休を取得中。

妻の沙樹さんは忙しい管理職のため、出産後早々に仕事復帰。

秋月は三ヶ月の蓮くんのために育児に励む日々。

ところが事件に巻き込まれて…(主にトラブル引き寄せ体質の姉のせいで)

中編3本入ってます。

 

似鳥さん、初めてかと思ったら過去一冊、プライムリーディングで読んでましたね。

評判の良い作家さんだとは思っていたので、「ほぼ」初見で買うことに抵抗はなく。

 

合間合間に秋月が感じる「育児あるある」に頷きっぱなしだった。

 

膨れ上がる荷物。

自分だけでなく周りの人まで赤ちゃんをあやすために声が変わってしまうこと。

子供が寝ている間に何をしよう、という妄想(そこまで長時間子供は寝ない)

困り果てる「子供フィーバー状態」(何をしても泣き止まない状態)

おむつ替えの手際の良さに自画自賛したり。

 

中でも共感したのは蓮くが「フィーバー状態」になったとき。

秋月は一瞬かっとなって蓮くんに怒鳴りつけ、抱いている手に力が入る。

我に返って「これが虐待につながる。虐待したくてするわけじゃない、環境がそうさせてしまう面が確かにある」と考える場面。

全く他人事じゃない。

私だって子供に大声を出して後悔したことは何回もある。

怒鳴って解決することなんて何一つないのに、言ってしまう。

これで何。

か影響を与えたらどうしよう、と思ってしまうのに。

 

そんな「育児あるある」が謎を解く手がかりになるのが面白い。

子供に触れ合ったことがある人なら持っている「育児スイッチ」。

赤ちゃんを連れているならあるはずの荷物。

それらが育休中のはずの秋月に推理させてしまう。

育休中ならではの視点が気付きを与える。

気づきを与えている蓮くんは名探偵なのだ(?)

 

そして最後。

事件解決後「ヒーローになりたくて警察官になったのに、うまくいかないね」と言う秋月に、姉が言う。

「いつもお腹いっぱいにしてくれる。怖いことがあっても護ってくれる。寂しくて泣けば駆け付けてそばにいてくれる。これがヒーローじゃなくて何?」「親やってるだけで、子供にとっては完璧にヒーローだよ」

このセリフを読んだときにすごく救われた気がして。

ヒーローになりたいと思ったことはないけど、育児に対してうまく向き合えなくて悩んでばかりで。

それでも子供は私を求めてくれるし、私はそれに応える。

そのやりとりで十分なんだな、と思うことができた。

 

あとがきを読むと似鳥さんにも子供ができたので、この話を書くことになったみたい。

 

発売からは少し経っているけど、発売直後(4月)に読むより今読んだことでより私の心に残る本になった。